第2回 システマティックレビュー・ワークショップ参加報告書

−−脳外科医として−−



国立がんセンター中央病院       
第二領域外来部脳神経外科 小山博史

はじめに

 近年、Evidence-Based Medicine(以下EBM)という言葉が盛んに用いられている。臨床上の診療過程を支援する知識は、State of Artと呼ばれる方法(Standard Procedure)についての知識とそれよりも良い結果が出ることを期待する方法(Trial)での結果に基づく知識の大きく2つに分かれ、相互に補完していくことが必要であると思う。今回JANCOC主催で1999年2月6日に東京医科歯科大学で開催された「第2回 システマティックレビュー・ワークショップ−○○でもわかるメタアナリシス−」に参加した一つの目的は、多くの経験に基づいた一般的と呼ばれる診療をどこまで疑いEBMの立場から再評価しなければならないかという素朴な疑問と、EBMのレベルとして最も評価の高い「多くの質の高いランダム化比較試験(以下RCT)に基づいた結果」を具体的にどのようにして系統的にレビューを行い、結果を出すかということをNeuro-oncologistとして学習することであった。さらに、国立がんセンター新棟の病院情報システムを構築した経験から今後の病院情報システムとこのような系統的レビューを支援するために必要な病院情報システム化の仕様に関するヒントが得られることを期待して参加した。

背景

 私が所属する施設では、「RCTを知らなければ人にあらず」の感さえある。また、外科の手技の有効性に関してRCTできるのかとの議論も根強くある。現状では如何に質の高いRCTを行えるプロトコールを作成するかに注目があつまり、多くの努力がなされている。そのような中でメタアナリシスに関する議論はあまり聞かれない。メタアナリシスできるレベルにまで国内レベルは至っていないという考え方もある。
 米国では全がん患者の約3%にRCTを中心とするクリニカル・トライアルが行われ、その結果を基に新しい治療法が開発されている。そのような情報が簡単に入るようになった今日でも日本国内の全がん患者の数の把握もされず、いわんやクリニカル・トライアルに参加している患者数の把握も全国レベルでなされていない。これは残念なことでありおかしい事だと思う。国立がんセンターが行うべきであるとの声も聞こえてきそうであるが、そのような予算も組織も現在は認められていない。
 また、今日の情報社会は国境を超えた情報の流通を簡単に行うことが可能になった。さらに過剰なデータを如何に整理し、自分の物としてかみ砕いて利用できるかと言う能力(インフォメーション・リテラシー)が問われる時代にもなっている。誰も彼もがクリニカル・トライアルを行うべきものでもなく、またメタアナリシスした結果を出せるものでもないと思う。つまり、患者サービスを向上させるべく、もっと効率的に問題の解決法に関する結果を具体化し、その情報をはやく知らしめる手段が必要になっている。

セミナーの要点

 午前中の内容はCochrane Libraryの使い方とメタアナリシスのイロハであった。Cochrane Libraryの使い方については、話の内容と印刷物との対応が不明確で実際のライブラリーを使用した経験が無い者にとっては理解が困難であった。メタアナリシスのイロハでは、コクラン共同計画の概要について大まかに理解ができた。午後の部はコクラン共同計画で作られたReview managerを用いた解説であったが、これは極めて解りやすかった。大まかなソフトの使い方を学ぶと同時にメタアナリシスの考え方と論文の取り扱い方と結果の出し方の困難さが理解できた。あまりにも簡単に結果がパソコン上表示される現状を目の当たりにして会場からは驚嘆の声もでた。しかし、既述したように個人的には、こんなにあたかも本当のように簡単に結果が出て良いのかという危惧の方が先にたってしまった。メタアナリシスの注意点はやや難解であったが、メタアナリシスを取り巻く注意点の概要が短時間に理解させていただいた。

考察

 約5時間という短時間のカリキュラムの中でコクラン共同計画の概要とメタアナリシスの基本と問題点が把握できたことは有益であった。しかし、本ワークショップの本題であるシステマティックレビューについては筆者の経験が無いこともあり理解できなかった。もし、機会があればぜひこの点について勉強したいと思った。脳神経外科専門医としては、現在の国内のこの分野に対する脳神経外科領域での遅れは甚だしいものがあると思う。RCTやメタアナリシス等の考え方は、脳腫瘍の化学療法や遺伝子治療において必須であると考えられる。
 病院情報システムについては。今後このようなシステマティックレビューを病院情報システムの中でどのように支援していくのか、また、本院では外来診療中にも端末から各種ホームページを参照できるようにしたが、このようなレビュー結果を如何に現場の臨床家にはやく伝えるシステムを構築するかが検討すべき内容であると考えられた。最後にこのような機会を作られた東京医科歯科大学津谷先生、大山先生他皆様に感謝いたします。