セミナー当日受け取った名簿を見て,薬剤師の参加が少ないことに驚いた.参加者は大半が医師で,会場の雰囲気から「EBM」という分野は日本においては,まだ歴史が浅いように感じられ,「誰でも出来る……」というタイトルにつられ気軽に参加したものの,これから始まる自分にとって未知の分野のセミナーに不安と期待を感じながら席に着いた.
医薬品情報の正しい評価方法を身につけるのに「EBM」というものが役に立つなら,このセミナーを期に「EBM」を詳しく学びたいということと,評価した情報を実際に臨床へ活かすには薬剤師としてどうすることが一番患者さんのためになることなのかが知りたいということが今回のセミナーに参加した目的だった.セミナーのほとんどの時間は少グループでの学習であり,私のグループはチューター1名と参加者8名(医師7名,研究者1名,薬剤師1名)の構成で,EBMのファーストステップは自分の疑問をはっきりさせること(何がわかっていて,何がわかっていないか),セカンドステップは疑問を定式化することと教えられ,まず,ロールプレイを見た後,各グループにおいてその疑問点を出しあい,疑問の定式化を行った.Patient(どんな患者さんに),Exposure(何をすると),Outcome(どうなるか).ここでは,P:70歳の男性の収縮期高血圧に,E:降圧剤を投与すると,O:脳卒中・虚血性心疾患発症が減少するか? という貝合に定式化していった.臨床上の大部分がこの形で定式化することが出来るということだった.
TIP/JIPの浜六郎氏による「日本の医薬品臨床試験の質の推移について」のスモールレクチャーでは,日本の臨床試験論文の評価として,背景因子の違いや脱落例の多さが指摘された.また,「これまでは医療の適正化,薬の適正使用であったが,今の課題は「使用する薬は良い薬か?」であり,世界的基準で評価し価値ある薬を見分ける必要がある.」と日本における薬の評価基準レベルの向上の必要性を示唆された.このレクチャーの資料に「臨床試験論文の質評価,点数表」というものがあり,これにより,無作為割付け,二重盲検,解析除外例,脱落例に対する重要性の置き方がわかり,日本の臨床論文はこれらが欠落したものが多いということに考えさせられた.
治療における的確な診断は医師の分野であるが,診断に基づいて処方される薬剤に関して,その処方内容の適正化,調剤,患者さんへの説明,効果の見極め,副作用のチェック等は,医師と共に薬剤師が関わらねばならない大切な部分である.医薬品情報があってはじめて,医師や薬剤師は薬の有効性と安全性を把握することが出来るのであるが,多くの情報の中には不確かなものもあることを心して,情報を理解し評価する必要性がある.また,薬剤師であれば医師や患者さんに情報を伝え有効に活用してもらうことが大切であり,それには単に得られた憎報をそのまま伝えるのではなく,きちんと評価された情報が必要となる.
疑問解決のために使う情報源としては,参加者の多くが医師であったためか病気に関する情報誌が多くあげられていた.その中で薬に関する情報源の一つとしてメーカーの資料があげられていたが,メーカーから配布される薬のパンフレットには,例えばラットを使った実験データの場合,有意に出てほしい効き目については40日間も投与してあるのに対し,出てほしくない毒性試験ではたった4日間の投与で切り上げてあるというケースが見受けられる.そのような場合,特に双方のデータが別々のページに掲載されていたり,投与日数を表す軸の長さが同じ長さで表現してあったりということもあるので,示されたデータの信憑性を見極め,情報を吟味することが必要だ.
情報源をたどっていくとどこへ行き着くか? ガイドラインは何に基づいて書かれているか? 行さ着くところは原著論文であり,これをどこからどんな風に読むかのトレーニングがあった.実際に論文を見て,無作為割付けされているか? 全員について結果が考慮されたか? 大切な結果はどこにあるか? 等を読みとることをした.普段,論文を見慣れていない私にはなかなか分かりにくかったが,論文を読むときのポイントがわかり,今後はセミナーで学習した事を基にトレーニングを積んで いこうと思った.
セミナーは全体的に医師対象の内容であり戸惑うことが多く,果たして自分自身どこまで理解出来たのか分からないが,「EBM」とはどういったもので,薬剤師にも役に立つことだろうか?」と思っていた不安は消え,セミナーを終えた今,「エビデンスに基づいた医薬品の使用」を実践していくために「EBM」の手法を取り入れ,それを処方の適正化や薬の安全性の確保,患者さんへの情報提供,そして,医療費の節減にも役立てていきたいと思っている.
また,この「EBM」をもっともっと広めていただきたい.基礎的なところから学べる機会や,「薬剤師のためのEBM講座」なるものもあれば良いと思う.「旅客機の乗客を患者さんにたとえるなら,薬剤師はいったいどういった職種に該当するか?」これは,地域の病院薬剤師会の研修会で講師から質問された言葉である.「機長にあたるのが医師で.薬剤師は病室(客室)に出向いて患者さん(乗客)と接することになるから,客室乗務員かな?」と考えた瞬間,講師の次の言葉に私は大きく打ちのめされた.「薬剤師は,航空管制官である.薬物療法という名の旅客機が離陸後,無事目的地に着陸できるよう,ニアミス(相互作用)や乱気流(患者容態の変動)を未然に察知し,機長(主治医)に的確な航路や高度を指示する航空管制官としての役割が,今,薬剤師に求められている. 今の私は航空管制官にはまだまだ遠い存在であるが,まず日常の疑問や問題点を定式化し,その解決に今回のセミナーで学習したことを活用していくことで,「EBM」を更に深く理解していきたい.そして,自分の周囲の薬剤師にも「EBM」の学習を働きかけていこうと思っている.