第1に、「臨床研究の消費者」としての臨床医にとって、最も役に立つコクラン共同計画の成果は、 Cochrane Database of Systematic Reviews (CDSR)でしょう。周産期医学については、すでに完成度の高いバージョンが別途作成・販売されているようですが、臨床医学のその他の分野については、CD-ROM版の CDSRによってレビューグループによる健康問題ごとの系統的レビューを見ることができます。レビューグループは現在 20余りが登録され、その他にも正式登録待ちのレビューグループが同じ数ほどあるようです。系統的レビューでは、テーマとなった治療的介入について、予め作成されたプロトコルに基づき発表および未発表のすべての無作為割り付け臨床試験 RCTを収集してレビューし、一定の質に達していると判断された RCTの結果を総合して「臨床の指針」と「研究の指針」が出されます。レビューグループは最新のデータに基づき年に数回このレビューをアップデートする義務を負います。私も会場で初めてこの CDSRに触れさせていただいたのですが、まだまだカバーされている臨床問題の数が少ないとは言え、内科や小児科、産婦人科以外の科の医師にとってもそれぞれに関連の深い領域が含まれていますので、内容が充実してくれば、 CDSRは臨床医学のすべての分野で非常に重要な指針を提供してくれるようになるでしょう。私の専門である精神医学では、精神分裂病および痴呆のレビューグループしかまだ正式登録されていませんが、てんかん、うつ病と神経症、摂食障害などのレビューグループが結成されようとしているようです。
第2に、「臨床研究の生産者」としての臨床医は、この CDSRの充実に貢献することができます。各レビューグループには、全体の運営を担当する administrator、個々のレビューを担当する editor(s)、これに協力する reviewersその他がいます。CDSRを覗いてみてすでに自分の関心の領域のレビューグループがあればその代表者と連絡を取り、またもし自分の関心の領域がまだカバーされていないようでしたら Australasian Cochrane Centerに連絡を取るといいそうです。私事ですが、私は「うつ病と神経症」のグループと連絡を取り、参加する予定です。reviewerとなる以外にも、日本語で発表されたデータの handsearchなどによりコクラン共同計画へフィードバックしてゆくことなどが重要な参加方法としてあるようです。
最後に、 RCTの重要性、とりわけその質の評価方法について、また複数の RCTの結果を統合するためのメタアナリシスの方法や、出された結果の解釈 (例えばオッズ比の意味)についても、臨床医が理解していなくてはならない時代になっていると考えられます。臨床医学の基礎的学問としての臨床疫学が学部教育の段階を含めて広く普及すること、そしていわば臨床疫学の「果実」である系統的レビューがコクラン共同計画の旗のもとにさらに蓄積され利用されることが期待されます。