脳動脈瘤破裂型クモ膜下出血に対する抗線維素溶解薬治療

Antifibrinolytic treatment in aneurysmal subarachnoid haemorrhage

Roos YBWEM, Rinkel GJE, Vermeulen M, Algra A, van Gijn J

最終更新日:13/07/1998


目的:このレビューの目的は脳動脈瘤破裂型くも膜下出血の患者に対する臨床結果上の抗線維素溶解薬の効果を評価することである.さらに,報告された再出血や脳虚血,水頭症の割合を分析する.

検索方法:このレビューは,概して,コクラン脳卒中グループによって発展した方法を参考にしている.関連のある試験はコクラン比較臨床試験レジスターによって同定された(より詳しい情報についてはレビュー・グループを参照).

選択基準:研究:

全てのランダム化比較試験は適当であった.隠蔽の割付け後,抗線維素溶解薬は対照治療(open studies)や,プラセボ(blind studies)と比較され,ITT解析がなされた.

患者:

試験に含まれた患者は様々なくも膜下出血の臨床症状や徴候を持っているため,このレビューでは,くも膜下出血の診断はCTスキャンもしくは髄液検査(CSF)でのくも膜下の血液の存在で確認した.

治療:

経口または静注の抗線維溶解薬(トラネキサム酸やε-アミノカプロン酸,それらと同等の薬)を用いた.

アウトカム:

三ヶ月間フォローアップの時点で,Glasgow Outcome Scale上,アウトカムの主なものは悪い結果(死,植物状態,高度障害)であった.それに加え,我々は報告された再出血,脳虚血,水頭症の割合を分析した.

データ収集と解析:二人の著者(YBWEMR, GJER)は独立して全ての適当な研究,治療した患者数・プラセボ群数・対照群数を詳しく述べてある抄録,ランダム化の方法,ブラインドの方法,診断や合併症の定義をレビューし,ITT解析はきちんと行えたかどうか,または,もとのデータから分析結果を再構築する事ができるかどうかを確かめた.その後,すべての著者らがそれぞれの試験の方法論的な質を評価し,分析し得る基準を満たしている試験を選択した.

主な結果:総数937名がランダム化されたくも膜下出血患者(治療群437名,プラセボ群364名,オープン対照治療群97名)の8研究が基準を満たしており,レビューの'Included Studies'という欄に詳細に記述された.

'poor outcome'の解析の中に,抗線維素溶解薬は臨床結果上有効であるというエビデンスはなく(OR 1.05, 95%CL. 0.76-1.46),さらに全死亡の解析の中にも致死例に有効であるというエビデンスはなかった(OR 0.96, 95%CL. 0.72-1.26).

再出血率の解析において,抗線維素溶解療法は再出血の危険性を有意に減少させた(オッズ比 0.59, 95%信頼区間 0.42-0.81).対照的に,抗線維素溶解療法は脳虚血の危険を増加させた(オッズ比 2.03, 95%信頼区間 1.40-2.94).

抗線維素溶解療法は水頭症の発生率に関して影響はなかった.

結論:現在,くも膜下出血に対して抗線維素溶解療法が有益であるというエビデンスはない.しかし,このレビューに含まれている試験はすべて10年以上前に実施されたものである.それ以来,脳虚血を防いだり治療するストラテジーが見いだされている.さらに,それらの治療ストラテジーは抗線維素溶解療法によって誘発された脳虚血を和らげる効果も期待でき,それゆえに,アウトカムを改善する事も期待できる.抗線維素溶解薬と抗虚血療法とを組み合わせた効果を調査する試験は実施されてないので,我々は前向き,二重盲験,プラセボ比較,多施設試験(STAR-study)を実施した.結果は1998年の末までに出る予定である.


Citation: Roos YBWEM, Rinkel GJE, Vermeulen M, Algra A, van Gijn J. Antifibrinolytic treatment in aneurysmal subarachnoid haemorrhage. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:矢野 礼/大野茂樹)