喘息に対するアレルゲン特定免疫療法

Abstract of review: Allergen specific immunotherapy for asthma

Abramson MJ, Puy RM, Weiner JM

最終更新日:29/01/1998


目的:1.喘息のアレルゲン特定免疫療法について公表されたすべてのランダム化比較試験を同定する.2.喘息の徴候,薬物治療の必要性,肺機能,非特定の気管支過敏反応性(BHR),およびアレルゲン特定BHRに対するアレルゲン特定免疫療法の全体の効力を評価する.

検索方法:"Immunotherap* OR Hyposensiti* OR Desensiti*"をキーワードとして,セント・ジョージ病院 医学校(ロンドン)のコクラン気道グループにより管理されている喘息データベースを検索したところ,660の引用文献が特定された.このデータベースは,1997年までのMEDLINE,EMBASE,およびCinahlデータベースの中で,キーワードが"Asthma OR Wheez*"であるすべての公表された研究が含まれており,同時にハンドサーチされた他の研究も含まれている.

選択基準:ランダム化比較試験(RCT)に限定してレビューを行った.喘息に焦点をあてた研究だけを採択した.アレルゲン特定免疫療法は,ハウスダスト,ダニ,花粉,動物性のふけ(体毛),糸状菌,化学的に変化したallergoids,または抗原抗体複合体のエキスの皮下投与と定義した.プラセボコントロール試験は方法論的により強かったが,ハウスダストや,その他の比較的抗原として不活性な製剤をコントロール群として投与した比較研究も考慮に入れた.二重盲検試験はより好ましいが,一重盲目,およびオープンスタディも採択可能としてレビューされた.以下の臨床アウトカムのうちの最低1つは報告されている必要があった:喘息の徴候,喘息薬物治療の必要性,肺機能,非特定BHR,またはアレルゲン特定BHR.

研究のレビューへの組入れは,上記検索方法により選び出され,先の基準に適合した論文の『方法』の欄を別々に読んだ3人の評者により,多数決で決定された.質の評価は,割付けの隠蔽が正しく行われているかについて2人の評者が別々に判定することで行われた.

データ収集と解析:比較されたのは:アレルゲン免疫療法 対 プラセボ,アレルゲン免疫療法 対 抗原的に不活性なコントロール,ハウスダスト 対 プラセボとアレルゲン免疫療法 対 未治療コントロールであった.いつの報告であっても,これらの結果は個々にそれぞれのアウトカムを評価した.

アウトカムのデータは抽出されて,統計分析のためRevMan 3.0.1に入力された.カテゴリー毎のアウトカムは,ピートの方法により算出されたオッズ比,95%信頼区間について分析された.引き続きアウトカムは,標準化された平均差(SMD)について分析された.固定効果モデルがアレルゲン免疫療法の全体的な有効性の統計的な要約を得るために使用され,カイ二乗検定が,研究間の非同等性を評価するために実行された.

主な結果:1954年〜1997年までの間に公表された54のランダム化比較試験が,採択基準を満たしていた.ダニアレルギーに対する免疫療法に関する研究が25,花粉アレルギーに対する研究が13,動物性のふけアレルギーに対する研究が8,クラドスポリウム属かびアレルギーに対する研究が2,多くの空気中アレルゲンに対して同時に免疫刺激療法を試みた研究が6認められた.11の研究においてのみ割付けの隠蔽が適正であると評価された.40の研究において,論文上公表された項目からは,適正またはそのほかについて決定することができなかった.3つの研究において,割付けの隠蔽は適切でない方法が使われていた.

以下の免疫療法において喘息症状スコアの全般的な改善が顕著にみられた. (統合標準偏差-0.52 95%-0.70〜‐0.35).免疫療法にランダム割付けされた患者は,プラセボ群と比べて有意に喘息徴候悪化の報告が少なかった(OR 0.27 95%CI 0.21〜0.35).

喘息薬物治療の必要性は有意に減少した(標準偏差 -0.51 95%CI -0.74〜-0.28). 免疫療法にランダム割付けされた患者は,プラセボ群と比べて薬物治療の必要性が有意に少なかった(OR 0.28 95%CI 0.19〜0.42).免疫療法後の肺機能の全般的改善は みられず,研究間にあきらかな非同一性がみられた.

免疫療法後に非特定のBHRおいてに僅かな減少みられた(SMD-0.32 95%CI -0.55〜-0.1).非特定のBHRでは,プラセボ群と比較して,免疫療法にランダム割付けされた患者の方が有意に改善していた(OR 0.13 95%CI 0.05〜0.34).免疫療法後のアレルゲン特異的BHRに有意な減少が認められた(SMD-0.69 95%CI -0.46〜-0.91).免疫 療法にランダム割付けされた患者は,アレルゲン特異的BHRの増大が起こる事が有意に少なかった(OR 0.28 95%CI 0.19〜0.41).

結論:アレルゲン特異的免疫療法は喘息の徴候と薬物治療の必要性をかなり減少したが,肺機能への効果はみられなかった.アレルゲン免疫療法は,非特異的 気管支過敏反応性を減少させる以上に,アレルゲン特異的な気管支過敏反応性を減少させた.

このレビューのデータに基づくと,免疫療法の改善の大きさと喘息のために行われた他の治療との比較が不可能であった.特に,免疫療法によってもたらされる利益と,同時に行われた吸入副腎皮質ステロイドによってもたらされる利益を分離して評価することは不可能であった.

アレルゲンが特定され,しかもアレルゲンを避ける事が不可能である非本態性の喘息に対して免疫療法は考慮されるべきである.特異的で効果的なエキスが使用されるべきである.この療法を使う時には,副作用の問題について患者と十分に議論されなければならず,免疫療法後も十分に長時間,患者の主要な全身反応についても論じられる必要がある.また,アナフィラキシーの可能性が良く知られているので,適切な回復処置が準備されていなければならない.


Citation: Abramson MJ, Puy RM, Weiner JM. Abstract of review: Allergen specific immunotherapy for asthma. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:日野村 靖/野澤崇志)