回腸嚢炎における緩解誘導と維持のための医療

Medical Therapy For Induction And Maintenance Of Remission In Pouchitis: A Systematic Review

Sandborn W, McLeod R, Jewell D

最終更新日:10/02/1998


目的:回腸嚢炎への反応を誘導し緩解を維持するための治療(メトロニダゾール,カルボマー・ビスマス浣腸,経口共生細菌,酪酸塩坐薬,グルタミン坐薬を含む)の有効性を決定する.

検索方法:研究はMEDLINEのデータベース(1966年-1997年12月)や主な消化管に関する学会抄録や公式論文や総説を参考に使って選択された.コクラン比較臨床試験レジスターやコクラン炎症性腸疾患グループの比較臨床試験特別レジスターも検索した.

選択基準:成人の回腸嚢炎患者への治療の4つのランダム化比較試験が確認された.2つは活動性慢性回腸嚢炎のプラセボ比較試験で,1つは慢性回腸嚢炎への2つの実薬を比較した緩解維持試験で,あと1つは慢性回腸嚢炎のプラセボと比較した緩解維持試験である.活動性慢性回腸嚢炎の1人の患者を対象とした"n-of-1" 試験は除外された.

データ収集と解析:データは intention to treat の方針にのっとり,3人の独立したオブザーバーにより抽出された.それぞれの研究に事前に決定した基準にのっとった質のスコア(質による重みづけ)をした.抽出されたデータは2X2 tables (反応VS無反応,治療VSプラセボ,治療VS治療)に変換した.そして,コクラン・マンテル・ヘンツェルの記述にのっとった,集積オッズ比と95%CI(MetaViewのオッズ比)を使って統計的な要旨に合成した.

主な結果:活動性慢性回腸嚢炎への経口メトロニダゾールやカルボマー・ビスマス気泡浣腸を使った緩解導入のプラセボに対するオッズ比は,それぞれ,26.67 (95%CI 2.31-308.01) と 1.00 (95%CI 0.29-3.48)であった.再発予防の必要治療患者数(NNT)は,経口メトロニダゾールは2で,カルボマー・ビスマス気泡浣腸は(浣腸とプラセボの有効性に差がなかったため)決定できなかった.経口共生細菌 (VSL-3) による慢性回腸嚢炎の緩解維持のプラセボに対するオッズ比は205.00 (95%CI 9.89-4247.71)であり,一方,再発予防のNNTは2であった.慢性回腸嚢炎の(活動性)抑制の治療中止後,酪酸塩坐薬とグルタミン坐薬の症候に基づいた緩解維持のオッズ比に差はなく,3(95%CI 0.46-19.59)であった.グルタミン坐薬による再発予防のNNTは4であった.

結論:この総説で示された結果は,それぞれの比較に対して評価された試験や対象患者の数が少ないことを,厳重に注意しながら解釈しなければならない.メトロニダゾールは活動性慢性回腸嚢炎に有効な治療であると思われる.カルボマー・ビスマス気泡浣腸は活動性慢性回腸嚢炎に有効な治療であると思われない.VSL-3 による経口共生細菌治療は緩解にある慢性回腸嚢炎患者への緩解維持療法として有効であると思われる.グルタミン坐薬と酪酸塩坐薬の治療で慢性回腸嚢炎の患者に症候に基づいた緩解維持に差があるという証拠はない.グルタミンと酪酸塩が同様に,有効か無効かは分かっていない.さらなるランダム化,二重盲目,プラセボ対照,用量で分類した臨床試験が,現在回腸嚢炎患者に使われている経験的な治療の有効性を決定するために必要である.

[訳者注 カルボマー:アクリル酸ポリマー(製剤上の懸濁剤として用いる)]


Citation: Sandborn W, McLeod R, Jewell D. Medical Therapy For Induction And Maintenance Of Remission In Pouchitis: A Systematic Review. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:田中恵美子/八森 淳)