静脈血栓塞栓症に対する非分画ヘパリンの適量投与と低分子ヘパリンの定量皮下投与

Fixed dose subcutaneous low molecular weight heparins versus adjusted dose unfractionated heparin for venous thromboembolism

van den Belt AGM, Prins MH, Lensing AWA, Castro AA, Clark OAC, Atallah AN, Burihan E

最終更新日:14/01/1998


目的:急性深部静脈血栓症や肺塞栓症の患者の初期治療における,非分画ヘパリン適量静脈内あるいは皮下投与に対する,低分子ヘパリンの定量皮下投与の有効性と安全性を評価する.

検索方法:MEDLINE,EMBASE,LILACSのコンピュータによる検索,そして静脈血栓塞栓症の治療における低分子ヘパリンのランダム化臨床試験の全ての論文に関連した雑誌のハンドリサーチ.さらに製薬会社の職員や医薬品情報提供者との個別の接触によりランダム化臨床試験を探した.

選択基準:静脈血栓塞栓症患者における非分画ヘパリンの適量静脈内あるいは皮下投与と低分子ヘパリンの定量皮下投与を比較した真のランダム化臨床試験のみを選択した.

データ収集と解析:検索方法,選択した研究,そして治療の前後の静脈造影を比較した静脈造影スコアの変化によるアウトカムのデータの評価,初期治療の期間と追跡期間中の有症性の再発性静脈血栓塞栓症の発生率,初期治療期間中の重大な出血の発生頻度,そして追跡終了時の総死亡率の評価は,2人の独立したレビュアーが行った.

主な解析は静脈血栓塞栓症の患者における全ての試験を含めた.以下の特別な患者集団についての付加的な解析も行った.1)近位深部静脈血栓症患者,2)肺塞栓症患者,3)悪性疾患患者.

主な結果:静脈血栓塞栓症の患者に対する現在の標準的治療である非分画ヘパリンと比較して,低分子ヘパリンによる治療は,初期治療中,3〜6ヶ月の追跡期間中,あるいは追跡終了時において,静脈血栓塞栓症の再発については,統計学的には有意でないが,約25%の減少が認められた.追跡終了時において,血栓性の合併症を発生したのは,非分画ヘパリン投与群に割付けられた1,816人の患者のうち101人(5.6%)であったのに対し,低分子ヘパリン投与群では1,803人の患者のうち76人(4.2%)であった(OR 0.75,95%CI 0.55〜1.01).

この解析に含まれた患者の約25%が肺塞栓症であった.静脈造影の結果においては,低分子ヘパリンが有効であるとの統計学的な有意差が証明された.静脈造影における血栓の大きさの減少は,低分子ヘパリン治療患者の62%に,また,非分画ヘパリン治療患者の53%に生じた.低分子ヘパリン使用により観察された初期治療期間の重大な出血の発生頻度の減少も統計学上有意であった.初期治療の終了時において,低分子ヘパリンでは患者2,158人中23人(1.1%),非分画ヘパリンでは患者2,196人中43人(2.0%)に重大な出血が発生した.追跡終了時に低分子ヘパリングループでは患者1803人中94人 (5.2%),非分画ヘパリン群で患者1,816人中125人(6.9%)が死亡した.これもまた統計学上有意な減少であった.

近位深部静脈血栓症患者の研究の解析(5研究,患者1,636人)では,追跡終了時において,低分子ヘパリン群で静脈血栓塞栓症の再発率が統計学上有意に減少した(OR 0.60,95%CI 0.40〜0.89).追跡終了時において,静脈血栓塞栓症の再発は,低分子ヘパリン群で814人中39人(4.8%),非分画ヘパリン群では822人中64人(7.8%)であった.この特別な患者集団においても,低分子ヘパリン群での重大な出血の発生率と死亡率の減少は統計学的に有意であった.しかし,肺塞栓の患者においては,静脈血栓塞栓症の再発の減少は相対的に小さく,95%信頼区間は大きい.

ランダム化される前に治療の割付けが適切に隠蔽されている研究(6研究,患者3,218人)の解析では,初期治療期間や追跡終了時の静脈血栓塞栓症の再発や初期治療期間中の重大な出血の発生においては,低分子ヘパリン治療群で統計学的に有意でない減少を示し,追跡終了時の全死亡率においても,統計学的に有意でない減少を示した.

結論:深部静脈血栓あるいは肺塞栓の患者における低分子ヘパリン治療の有効性と安全性は,少なくとも非分画ヘパリン治療と同じくらい有効であった.低分子ヘパリンの安全性に関するアウトカム,初期治療中の重大な出血の発生と追跡終了時での全死亡率は,低分子ヘパリン治療群で統計学的に有意な減少を示した.低分子ヘパリンは深部静脈血栓の患者における標準的治療として安全に採用できると結論づけた.従って,これらの患者において,個々の低分子ヘパリンを各々比較した研究は正当なものであろう.肺塞栓の患者における結果にも期待できるが,今後の新しい研究の結果を待つことが賢明だろう.


Citation: van den Belt AGM, Prins MH, Lensing AWA, Castro AA, Clark OAC, Atallah AN, Burihan E. Fixed dose subcutaneous low molecular weight heparins versus adjusted dose unfractionated heparin for venous thromboembolism. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:高口恵子/橋本 淳,大野茂樹)