重篤な精神障害患者のための積極的コミュニティー治療(Assertive Community Treatment)

Assertive Community Treatment for people with severe mental disorders

Marshall M, Lockwood A

最終更新日:25/02/1998


目的:1.標準的なコミュニティケア,2.伝統的な病院が基礎となったリハビリテーション,3.ケースマネージメントの代わりとしての積極的コミュニティー治療(Assertive Community Treatment: ACT)の効果を決定する.3つの比較における,主なアウトカムの指標は以下のとおりである.1.精神科での治療の継続,2.精神病院への入院の程度,3.臨床的そして社会的アウトカム,4.費用.

検索方法:CINAHL,コクラン精神分裂病グループの臨床試験データベース,EMBASE,MEDLINE,PsycLIT, SCISEARCH,そしてすべての同定された研究と総説の文献リストを検索した.

選択基準:包含基準は研究が,1.ランダム化比較試験を行い,2.標準コミュニティケア,病院を基準としたリハビリテーションまたはケースマネージメントとACTを比較している,3.大多数が18歳〜65歳である重篤な精神障害の人々を対象としていることである.ACTは,著者が'Assertive Community Treatment'かまたはその同義語で記述しているものと定義された.病院への入院の代替として,あるいは病院を回避するプログラムとして,あるいは危機介入として行われたACTの研究は除外された.包含基準の信頼性は評価された.

データ収集と解析:データには3種類のタイプがあった.1.カテゴリー的データ,2.実際の生活上の出来事の数をベースとした数字のデータ(カウントデータ),3.標準化された尺度によって得られた数字のデータ(スケールデータ).カテゴリー的データは,2度抽出し,クロスチェックした.ピートのオッズ比と効果発現必要症例数(Number Needed to Treat: NNT)が計算された.カウントデータは,技術的な理由のために(データの分布の歪度が強かった)結合することが出来なかったが,カウントデータをベースとしたすべての意味のある観察は報告した.スケールデータの質を評価した.この質の評価の妥当性そのものも評価された.質を確かめられたスケールデータは,可能ならば標準化平均差standardized mean differenceを利用して結合し,そうでなければ本文または「その他のデータの表」で報告した.

主な結果:ACT対標準コミュニティケア

ACTを受けている人々は,標準コミュニティケアを受けている人々よりも,精神医療サービスを受け続ける(OR 0.51,99% CI 0.37-0.70).ACTを割付けられた人々は,標準コミュニティケアを受けている人々よりも,入院することが少なく(OR 0.59,99% CI 0.41-0.85),そして,病院で過ごす時間が少なかった.臨床上及び社会的アウトカムについては,ACTと標準コミュニティケアとの間で以下のような統計学的に有意で確固とした違いが見られた.1.住居,2.雇用,3.患者の満足感.精神状態や社会的機能においては,ACTと比較した治療法の間では差がなかった.ACTは,病院での治療の費用を常に減少させた.しかし,他の費用を勘案すると標準ケアに対し,明らかに有利さはなかった.

ACT対病院を基礎としたリハビリテーション

ACTを受けている人々は,病院を基礎としたリハビリテーションを受けている人々に比べ,精神科サービスを受け続ける率は変わらなかった.しかし,オッズ比の信頼区間は広かった.ACTの人々は入院が,病院を基礎としたリハビリテーションを受けている人々に比べて少なく (OR 0.2,99% CI 0.09-0.46),病院で過ごす時間が減少した.ACTの人々が,独立して生活する頻度がより多かった(独立した生活をしていないことのOR 0.19,99% CI 0.06-0.54)が,臨床上や社会的なアウトカムでは有意で確固としたものは何もなかった.コストについては比較に足るだけのデータがなかった.

ACT対ケースマネージメント

精神科サービスを続けた人の数や入院の数のデータは得られなかった.ACTを受けた人々は,ケースマネージメントを受けている人々に比べて一貫して入院日数が少なかった.臨床上や社会的アウトカムの確固とした比較をするにはデータが不十分であった.病院での治療のコストは,一貫してACTの人々のほうが少なかった.しかし,ACTは他のコストを計算すると,ケースマネージメントに比べ,明らかな有利さはなかった.

結論:ACTは,重症の精神障害を持った人々をコミュニティでケアする臨床的に有効な方法である.頻回の入院を要するような人に対象を絞るならば,ACTは入院費用を実質的に削減でき,臨床的および社会的アウトカムと患者の満足感を向上することができる.政策立案者,医療関係者,消費者はACTチームの結成を支持するべきである.


Citation: Marshall M, Lockwood A. Assertive Community Treatment for people with severe mental disorders. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:仲川三春/古川壽亮)