タイトル=痴呆や認知障害のある患者におけるpiracetamの有効性

The efficacy of piracetam in patients with dementia or cognitive impairment.

Flicker L, Grimley Evans J

最終更新日:25 February 1998


目的:痴呆や認知障害の症状に対するpiracetamの臨床的な有効性を評価する。痴呆や認知障害には、血管性痴呆、アルツハイマー型痴呆、血管性・アルツハイマー混合型痴呆などの主要サブタイプ、その他の痴呆、あるいは痴呆の判断基準を満たさない認知障害が含まれる。

検索戦略:コクラン痴呆・認知障害研究班(Cochrane Dementia and Cognition Impairment Group:以下CDCIGと略)では"piracetam"、"nootropic"、"2-oxo-1-pyrrolidine acetamine"の語を用いて臨床試験を検索し登録した。Medline、Embase、PychLit、Current contents、Sociofileなどの電子的文献データーベースを用い、1996年以降の範囲で、"piracetam"、"nootropics"、"2-oxo-1-pyrrolidine"、"trials"の語で検索を行なった。さらにUCB Pharma社−−世界中の大部分のpiracetam市販に関与している製薬会社−−より、多くの未発表の研究を含むabstractの広範な目録が提供された。これら未発表のプラセボ対照の研究は可能な限りレビューの対象とする予定である。

選択基準:アルツハイマー型痴呆、血管性痴呆、血管性・アルツハイマー型混合痴呆、その他の痴呆、痴呆の基準を満たさない認知障害の患者に対して、piracetamを1日以上投与し、プラセボ群と比べたランダム化比較試験であることが明確に特定できた試験は全て含めた。

データ収集と分析:データは二人のレビュアーが、それぞれ独自に抽出した。それぞれの研究は、包含基準を充たすか否かを両レビュアーが別個に判定した。各研究は、Jadadら(1996)の方法に従い、解析前の遮蔽と脱落に関する評価を行い、方法論上の質についての採点が行われた。プールすることが適当かつ可能であれば、プールした全体のオッズ比(95%信頼区間)と平均差(95%信頼区間)を求めた。可能であれば、intention-to-treatのデータが用いられた。質的基準に従って、性能の不良な研究が次々に除外されることにより効能の評価が変わってしまわないかどうかをチェックするために、感度分析を行った。

主要結果:残念なことに、これらの研究の多くがクロスオーバー・デザインによって実施されており、第一期間のデータが利用できなかった。また、その他の多くの研究でも、第一期間からデータを抽出することができなかった。プールしたデータから、有意量の証拠をもつアウトカムとしてえられたものは、「変化の全般的印象」だけであった。それぞれの研究から得られた結果に均質性がないことは、Chi squared testは20.8(df=5)であったことからも証明できる。プラセボ群に対するPiracetam群の改善のオッズ比は、fixed effects modelを用いれば3.55(95%信頼区間:2.45〜5.16)であり、Random effects modelを用いれば、オッズ比は3.47(95%信頼区間:1.29〜9.30)となった。単盲検試験の一つを除外すれば、fixed effects modelではオッズ比3.36(95%信頼区間:2.29〜4.99)、random effects modelを用いればオッズ比2.89(95%信頼区間:1.01〜8.24)となった。認知およびそれ以外の尺度に対する有効性を示すエビデンスは確立していない。

結論:現段階において、すでに公表されている文献からは、痴呆や認知障害を持つ患者の治療にpiracetamを用いることの有効性を支持する証拠は得られなかった。何故なら、効果は変化の全般的印象について認められただけであり、より特異的な尺度によって確かめられたわけではないからである。ピラセタムに関しては、以下に示すような、さらなる評価を行う必要がある。

1) 個々の患者のデータベースをレビューするために、これらの研究論文からデータを入手すること、

2)現在承認されている診断基準によって診断した患者を対象として、piracetamのランダム化比較試験を行なうこと。piracetamは、少なくとも6ヶ月、できれば更に長期間にわたって継続すべきである。そのような研究の実施に際しては、変化を敏感に反映する特異的な認知の尺度、医師からみた変化の全般的印象、依存の程度、介護者のQOL尺度なども取り込む必要がある。


Citation: Flicker L, Grimley Evans J. The efficacy of piracetam in patients with dementia or cognitive impairment.. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:野崎香織/別府宏圀)