後部の交叉咬合の歯科矯正治療

Orthodontic Treatment for Posterior Crossbites

Harrison JE, Ashby D

最終更新日:12/08/1998


目的:このレビューの目的は,上顎の歯列を広げたり後部の交叉咬合の矯正に用いられたりする歯科矯正治療を同定し,評価することである.

検索方法:コクラン口腔衛生グループの検索方法に従ってコクラン比較臨床試験レジスターから同定されるか,コクラン口腔衛生グループの比較臨床試験レジスターに保管された、全てのランダム化および比較臨床試験.

Mesh termやfree text wordsを用いたMEDLINEの検索,英国,ヨーロッパ,アメリカの歯科矯正の雑誌やAngle Orthodontistのハンドサーチ,上顎の歯列の拡大または後部の交叉咬合を矯正といった歯科矯正治療のアウトカムについて報告する論文とレビュー記事の参考文献のうち1970年から1997年の間にアブストラクトや論文として発表された英語文献.

選択基準:交叉咬合の矯正,臼歯や犬歯の拡大,顎関節症の徴候や症状,呼吸器疾患のアウトカムの量に関するデータを報告したフルペーパーやアブストラクトとして発表されている全てのランダム化比較臨床試験.

データ収集と解析:データは,著者,用いられた治療,得られた結果を隠さずに抽出された.ランダム化および比較臨床試験の筆頭著者らにランダム化割りつけの方法を確認し,かつ未発表の研究を見つけ出すために手紙を送った.

オッズ比,95%信頼区間,相対危険,相対危険の減少,絶対危険の減少,number need to treatが事象データに関して算出された.連続データについては加重平均差と95%信頼区間が算出された.

主な結果:上記検索方法を用いて,7つのランダム化臨床試験と5つの比較臨床試験が見出された.しかし,後の著者らとのやりとりにより,3つのランダム化臨床試験と1つの比較臨床試験が分類し直され,このレビューでは5つのランダム化臨床試験と7つの比較臨床試験が用いられた.

乳歯列で上部の可撤性の拡大装置を用いたあるいは用いなかったときの混合歯列に咬合研削を行った場合と何もしなかった場合との比較,急速な上顎の拡大における歯環と接着の比較,ゆっくりした上顎の拡大における歯環と接着の比較,buccal root torqueの有無に関わらずtranspalatal archを用いた場合と上部の可撤性拡大装置を用いた場合とをquad-helixを用いた場合と比較した試験が認められた.

研削で効果のでない子どもの混合歯列においては,上部の可撤性拡大鈑の装着を用いたあるいは用いなかったときの乳歯列での咬合研削が,永久化しつつあるときから混合して永久歯列になるまでの乳歯列における後部の交叉咬合を予防する効果があることが示された.

急速な上顎の拡大における歯環と接着の比較,ゆっくりした上顎の拡大における歯環と接着の比較,buccal root torqueの有無に関わらずtranspalatal archを用いた場合と,あるいは上部の可撤性拡大装置を用いた場合とをquad-helixを用いた場合と比較した試験において試験とコントロールの介入との間で(臼歯や犬歯の拡大といった)治療効果の違いは見られなかった.

結論:1989年のLindner,1984年のThilanderによって報告された試験からは,赤ちゃんの歯の未熟な接触を取り除くと,永久化しつつあるときから混合歯列や大人の歯になるまでの後部の交叉咬合を予防するのに効果があることが示唆されている.研削だけでは効果はなく,上部の可撤性の拡大装置を上部の歯を広げるのに用いると,永久化しつつあるときから永久歯列になるまでの後部の交叉咬合の危険性を減少させるものと思われる.

1997年のAsanza,1997年のSandikcoglu,1989年のMassaz-Joelson,1995年のIngervallによって報告された試験の中で行われた治療の比較は結論に達していないので,これらの試験の結果に基づいての臨床的実践への推奨は行えない.これらの試験は小規模で,不十分な解析力しか無いので,適当なサンプル数のある更なる研究がこれらの介入を評価するのに必要である.


Citation: Harrison JE, Ashby D. Orthodontic Treatment for Posterior Crossbites. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:野崎香織/糸矢宏志)