ダニ媒介脳炎(TBE)ワクチン

Tick-borne encephalitis(TBE) vaccines

Demicheli V, Graves P, Pratt M, Jefferson T

最終更新日:23/11/1997


目的:ランダム化比較試験によって,TBEワクチンの有効性,免疫原性,安全性を評価する.

検索方法:MEDLINEとEMBASEを標準的なコクラン検索戦略で検索した.すなわち,コクラン感染症グループの比較臨床試験特別レジスター,コクランワクチン・フィールドの試験レジスター,コクラン比較臨床試験レジスター.

選択基準:プラセボや対照ワクチンとTBEワクチンとを比較したランダム化比較試験と準ランダム化比較試験,又は,TBEワクチンの投与量や投与計画の相違によるランダム化比較試験の中でオリジナルかつ前向き研究のすべて.

データ収集と解析:使われたワクチンの種類,および,それぞれの試験を行った集団の被験者総数.それぞれの集団の詳細(ワクチン,プラセボ,投与総量および投与期間)および重要なアウトカムについての数.

主な結果:1つの公表されていない試験と4つの公表された試験が我々の判定基準を満たした.試験のデザイン,投与量や投与期間,報告されたアウトカムが様々であったことは,メタ・アナリシスにとって,試行すべてを組合わせることは不可能であったことを示していた.4タイプのTBEワクチンが用いられ,免疫原性や有害作用が評価された.すべてのワクチンはたいへん免疫原性が強く,87%を超える確率でセロコンバージョンを与えた.全身性の有害作用が現れる確率は高く,16〜59%に及んだ.小児へのBehringwerkeワクチンの少量投与(1.5μgのかわりに0.4又は0.75μg)は,より少ない副作用で同等の免疫原性が得られるようだ.それに加えて,短期免疫法計画は,3週間後には,従来の計画で得られるのと同じセロコンバージョンが得られる(99%以上).しかしながら,短縮計画の場合,有害作用をしばしば増加させた.セロコンバージョンが臨床上,何かから身を守るためのものであるかどうかは知られておらず,疾患予防の効力について調べる研究も見られない.

結論:この文献の中で評価されたTBEワクチンは高い免疫性があるが,短期間の副作用の確率も比較的高い.有害作用で重篤化,致死的というものはなく,少量投与の小児で有害作用はあまり見られなかった.3週間継続する投与計画の場合,約1年継続する投与計画と比べて有害作用の増加がやや見られつつも,同等の免疫原性があった.すべての研究で,副作用の追跡が短期間であったとか研究に関する完全な報告がなかったなどという方法論的な欠点が見られた.ワクチン予防接種後,どのくらいの期間抗体力値が高い状態であるのかという情報はほとんどない.アウトカムを知るためにELISAを用いてセロコンバージョンを調べる試験の中には,他のフラビウイルス属(例えば黄熱病)の抗体の存在によって,事実に反する可能性を導き出すことにつながることがあるので,この方法は不確実である.どの試験にもセロコンバージョンしてTBEになったという症例については報告されていない.1回の試験の中で,そのようなアウトカムにあたることはそう簡単にはないであろう,というのは,この疾患は稀であり,いまや,国によってはこのワクチンを用いる治療が標準治療の1つとなっているから,プラセボ集団を作り出すことについて倫理上の問題があるからである.


Citation: Demicheli V, Graves P, Pratt M, Jefferson T. Tick-borne encephalitis(TBE) vaccines. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:矢野 礼/吉村 学,鶴岡浩樹)