虚血性脳卒中における血栓溶解療法:様々な投与量や投与経路,薬剤を用いた直接的ランダム化比較

Thrombolysis in acute ischaemic stroke: direct randomised comparisons of different doses, routes of administration and agents

Liu M, Wardlaw J

最終更新日:13/04/1998


目的:血栓溶解剤の種類を変えたり同一薬剤でも投与量または投与経路を変えると安全性や有効性に違いが現れるかを検討する.

検索方法:コクラン脳卒中グルーの検索方法を用いた.それに加えて,日本と中国の医学雑誌をハンドサーチしたり,血栓溶解カンファレンスに参加したり,関係のある研究者と連絡をとることよって検索した.

選択基準:発症後14日以内の急性の虚血性脳卒中(CTスキャンを用いて頭蓋内出血の患者は除外した)の患者を用いたランダム化試験または準ランダム化試験において,同一血栓溶解剤を少量投与した場合と大量投与した場合の比較,または,血栓溶解剤の種類による比較,同一薬剤の異なる投与経路での比較を行なった.他の薬剤(例えばヘパリンのような)の使用やある治療手段,またはそれに準ずる物によって結果に誤差が生じた試験は除外された.投与量の範囲について調べたランダム化されていない試験もまた除外された.

データ収集と解析:二人の著者が,試験の方法論,早期および晩期の死亡についての抽出されたデータ,機能的アウトカム,症状のある(または,少なくとも臨床的に重大と思われる)あるいは致命的な頭蓋内出血と頭蓋外出血,intension to treat解析に従っていることについて評価した.

主な結果:725名の患者を用いて実施された7試験で,同一薬剤を少量投与した場合と大量投与した場合を比較した.そして,518名の患者を用いて実施された3試験で,薬剤の種類を変えた比較が行われた.145名の患者を用いて実施された1試験は用量による比較と薬剤の種類による比較の両方を行ない,それぞれの寄与を明らかにすることに焦点を当てた.このレビューに用いられた全ての患者数は1,334名である.投与経路を変えた試験で完了したものは無かったが,いくつかの試験では現在進行中である.

組織プラスミノーゲンアクチベータの投与量を変えた2試験とウロキナーゼの投与量を変えた2試験の,計4試験の薬物投与経路は全て静脈内であった.組織プラスミノーゲンアクチベータとウロキナーゼとを比較したのは2試験あり,細胞培養して得られたウロキナーゼと従来のウロキナーゼとを比較したのは1試験あった.機能的アウトカムの情報はほとんど得られなかった.血栓溶解療法として同一薬剤を少量投与した場合に比べ,大量投与した場合において致死的頭蓋内出血が約5倍増加した(OR 4.82, 95%CI 1.43-16.26, 2p=0.01).そして,初期の死亡や臨床的に重要な頭蓋内出血があまり重要ではないが増加する傾向がある.それゆえに,大量投与の処方計画を用いた場合,患者1,000名に対し24名の致命的な頭蓋内出血が増加すると思って良いだろう.どの試験でも晩期のイベントはごくわずかしか認められなかったのだか,少量投与群と大量投与群とを比較して,晩期の死亡や頭蓋外出血には差はみられなかった.

異なった薬剤を投与した患者の間ではっきりとした差はみられなかった.

結論:データがほとんどないので,血栓溶解剤少量投与の方が大量投与の場合と比べてより安全でより効果的であるとか,どの薬剤が優れているとか,どの投与経路が最適であるといったような確実な結論を引き出すことはできなかった.情報のほとんどがウロキナーゼと組織プラスミノーゲンアクチベータに関するものであった.ストレプトキナーゼに関する比較情報はなかった.脳卒中患者に対して最も危険が少なく最も有効な薬物投与量,薬剤,投与経路はどれかということに焦点をあてたさらに進んだ大規模な試験が必要であろう.


Citation: Liu M, Wardlaw J. Thrombolysis in acute ischaemic stroke: direct randomised comparisons of different doses, routes of administration and agents. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:矢野 礼/今道英秋)