アルツハイマー病の対症的治療に関するセレギリンの安全性と有効性:システマティック・レビューによる検証

The efficacy and safety of selegiline for the symptomatic treatment of Alzheimer's disease: a systematic review of the evidence

Birks J, Flicker L

最終更新日:25/08/1998


目的:このレビューの目的はセレギリンがアルツハイマー病患者のwell-being(訳註a)を改善するかどうかを評価することである.

検索方法:コクラン痴呆と認知障害グループ(CDCIG)による臨床試験の登録データベースを,"selegiline","l-deprenyl","eldepryl","monoamin oxidase inhibitor-B"等の用語を用いて検索した.

検索をランダム化比較試験だけに限定するためのCDCIG戦略(詳細は同グループを参照)を用いた上で,MEDLINE,PsycLIT,EMBASE等の電子データベースを上記の用語で検索した.

選択基準:痴呆患者に1日以上セレギリン治療を行い,交絡のない,双盲の,ランダム化比較試験であることが明らかな試験はすべて選択した.

データ収集と解析:データは各レビューアー(JSB & LF)がそれぞれ独自に抽出し,プールすることが適切で可能ならばプールした.プールしたデータのオッズ (95%信頼区間)又は平均差(95%信頼区間)が推定された.可能なかぎりは,intention-to-treatデータを用いた.

主な結果:14の試験が採択された. セレギリンの認知に関する効果については全ての試験が検査していたが,その他に,11の試験では行動や気分に対する効果が検査してあった.9件の試験の結果は,認知障害に対してセレギリンに何らかの有益な効果があることを示唆しており,4件の試験では行動や気分についても何らかの効果があることを示唆していた.

メタ・アナリシスの結果は,幾つかの認知テストにおいて記憶テストの改善が証明され,記憶機能に有益であることが分かった.全ての認知テストのデータをプールすると,セレギリン治療を受けた患者の方が,対照群に比して,有意に優れていることが示唆された. Brief Psychiatric Rating ScaleとDementia Mood Assessment Scaleを用いた検査では,気分や行動の改善に有利な結果が得られた.全般評価尺度(global rating scale)では,セレギリンの効果は見られなかった.残念ながら,MMSE(Mini-Mental State Examination)もADAS-cog(Alzheimer's Diseases Assessment Scaleの下位尺度で認知機能を評価する)も,標準化した全般認知尺度(global cognitive scale)を用いた証明は非常に限られている.

様々な副作用が記録されているが,介入の直接的結果として試験を中断した患者はきわめて少ない.

結論:アルツハイマー病患者に対するセレギリンの有益性の証明は期待できるが,現時点ではまだルーチンな臨床使用を推奨するには証拠不十分である.

標準化した認知スケール,全般的変化に関する治療医の印象,患者の依存性,介護者のQOLなどをエンドポイントにセレギリンの使用を評価する研究を行うとともに,個々の患者データをレビューしてみることが,対照と比べたセレギリンの効果をさらに証拠づけるのに役立つであろう.

訳注a:ここでは,単に身体的あるいは知的能力の改善・維持にとどまらず,患者や介護者のQuality of Lifeまでも含めた概念としてwell-beingを使用していると思われるが,日本語に適当な言葉がないため,英語をそのまま当てた.


Citation: Birks J, Flicker L. The efficacy and safety of selegiline for the symptomatic treatment of Alzheimer's disease: a systematic review of the evidence. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:別府宏圀/)