マラリアコントロールにおけるベッド・ネットとカーテン使用の有効性

Insecticide treated bednets and curtains for malaria control

Lengeler C

最終更新日:15/05/1998


目的:マラリア発生地域において,マラリアの罹患と死を予防するために,殺虫剤処理されたベッド・ネットまたはカーテンの有効性を要約する.

検索方法:MEDLINEとEMBASEから抽出した公表された試験,コクラン感染症グループの比較臨床試験特別レジスターに登録された試験,レビュー,研究者と研究の蓄積機関やピレスロイドをネットの処理に使用している製造業者への直接的なアプローチを行った.

選択基準:適切な殺虫剤を使って十分な用量で処理したベッド・ネットまたはカーテンを用いたすべてのランダム化比較試験(公表済み,未公表の両方).代替の割り当て,またはバイアスが無いようであった他の割り当て方法を使っている試験も取りいれた.

データ収集と解析:抽出された結果を下記に示す.すべての原因による子供(1〜59ヶ月)の死亡率,重症のマラリアの発生率,軽症のマラリアの発生率,寄生虫血症の流行,平均ヘモグロビン値,脾腫,栄養状態.

薬剤を染み込ませたネットを,ネットなしあるいは未処理のネットと比較した.試験はマラリアの流行度(昆虫による接種率)により層別化された.流行度が低い地域では,三日熱マラリア原虫が一般的であった(>30%).

結果は,相対リスク,保護効果(1-相対リスクx100)として,また死亡率,リスクの違いとして表現された.提供されたデータが十分であった時には,集団ランダム化のための調整を行った.

主な結果:合計18試験が組込み基準を満たした.さらに47試験が見つかったが初回の分析からは除外された.同様に解析するために信頼区間を少なくとも部分的に補正した10の試験の集団のため,組込まれた18試験のうちの11試験はランダム化された.

生後1ヶ月から59ヶ月までの死亡率が4つの試験で測定されていた.全体の相対リスクはネットを使用しないコントロール群との比較で0.83であり未処理のネットとの比較で0.77であった.薬剤を染み込ませたネットを未処理のネットあるいはネットの未使用(すべての試験にプールされている)と比較した時には合計の相対リスクは0.82であり,全体の評価として18%の保護効果が認められた.

媒介強度が増加するに従い保護効果が減少する傾向が検出された(p <0.03).合計のリスクは6例/1000人/年の子供が死亡せずに済むという差を示し,それは流行度に依存する傾向を全く示さなかった.

重症マラリアをアウトカムとした試験が一つあり重症マラリアを45%減少させることが記述されていた.

殺虫剤処理されたネットは軽症のマラリアの発生率を減らした.マラリアが定着している地域でコントロールをネット未使用とした場合の保護効果(PE)=48%であり,コントロールを未処理のネットとした場合はPE=39%であった.また伝染が少ない地域では熱帯熱マラリア原虫(PE=62%,コントロール群に対して43%),三日熱マラリア原虫(PE=42%,コントロール群に対して25%)とそれぞれ同じ効果を認めた.

熱帯熱マラリア原虫と三日熱マラリア原虫の流行への効果は少なく,サブグループにおいては有意であったが全体では有意でなかった.マラリアが定着している地域ではコントロールがネット未使用の場合にはPE=5%でありコントロールが未処理のネット使用の場合はPE=10%であった.熱帯熱マラリア原虫の高い寄生虫血症においては効果は僅かであり,コントロールがネット未使用の場合はPE=24%であり,コントロールが未処理ネット使用の場合はPE = 20%であった.

殺虫剤処理されたネット使用の子供の平均充填赤血球量(PCV)はネット未使用と比べて絶対値で1.4%高く,未処理ネット使用よりも絶対値で0.4%高かった.

両コントロールと比較して脾腫がそれぞれPE=30%,PE=23%と減少した.

殺虫剤処理されたネット使用は3つの試験において,標準人体測定パラメーターの改善と関連していた.

結論:殺虫剤処理されたネットは全体の死亡率をアフリカで5分の1減少させることが試験によって示された.1,000人の子供に使用することにより,生後1〜59ヶ月の子供の命を年間約6名救う事が可能である.殺虫剤処理されたネットは臨床的に熱帯熱マラリア原虫と,三日熱マラリア原虫による軽症の感染も減少させる.

実行のためには,主な財政的,技術的,運営的問題がうまく噛み合い次第すぐに,殺虫剤処理されたネット普及のプログラムがマラリアの流行する国において広く実行されるべきである,と解釈される.マラリアの蔓延の高い地域(EIRが100以上)の死亡率は,長期効果の結果を明確化するために,大規模なプログラムの機構によって慎重に監視されるべきである.

いくつかの研究領域において,より多くの研究が行われる必要がある.それは,

a)試験の条件に対してのプログラムの条件下で殺虫剤処理されたネットの効果は種々の伝染状況のもとで保持されているかどうか

b)ネットの下で寝る人々の使用比率によってどれだけ効果があるかを調査すること

c)未処理ネットの有効性のよりいっそうの調査

d)ネットに染み込ませる物質により高伝染地域の免疫獲得の減少がおこるとの仮説が事実かどうかを試験する事

である.

熱帯病における試験で,研究者は,ランダム化試験の集合の解析はデザイン効果に注意して行うべきであると認識するべきである.臨床試験実施者,統計家,および雑誌編集者はこの広範囲に及ぶ解析と公表の問題を提示するために集まる必要がある.さらに,公表される論文はメタ・アナリシスで信頼区間の計算が出来るように効果の評価の標準誤差を記載するべきである.


Citation: Lengeler C. Insecticide treated bednets and curtains for malaria control. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:日野村 靖/糸矢宏志)