卵管妊娠の治療

Treatment of tubal ectopic pregnancy

Hajenius PJ, Mol BWJ, Bossuyt PMM, Ankum WM, Van der Veen F

最終更新日:06/08/1998


目的:卵管妊娠のさまざまな治療法を,短期的(初回治療の成功,及び臨床症状または遺残絨毛に対する追加治療)および長期的(卵管疎通性および将来の受胎)な評価項目について検討すること.

検索方法:レビューに用いた文献は,コクラン月経異常疾患と生殖能力低下グループ用に開発された検索方法により,およびアムステルダム大学医学センター産婦人科の臨床図書館司書が"pregnancy-ectopic"という検索用語を用いてMEDLINE検索を毎月行った結果から,収集された.

選択基準:卵管妊娠治療に関するすべての発表されたランダム化比較試験

データ収集と解析:検討対象とされた試験を,その試験結果とは関係なく,方法論の質と包含することの適切性について評価した.筆頭レビュアー2人が独立して,コクラン月経異常疾患と生殖能力低下グループが開発した標準的チェックリストを用いたてデータを抽出した.

主な結果:卵管妊娠の治療においては,外科療法,薬物療法,待期的管理などいくつかの治療法が可能である.卵管妊娠の薬物療法についてのランダム化比較試験で用いられた薬物は,主としてメソトレキセートであり,また時にグルコース高張液やプロスタグランジンであった.

今回のレビューには31試験が使われ,17種の比較が行われていた.比較には,外科療法間の比較,薬物療法と外科療法,薬物療法どうし,薬物療法と待期的管理があった.多くの比較試験は1施設での小規模研究あった.

レビューに用いた研究は全体的に研究方法の質が低かった.症例数が少なく,特に妊娠率評価において,さまざまな評価項目において信頼性のある比較検討を行うのは困難であった.メタ・アナリシスを行ったのはつぎの3種類であった:(1)腹腔鏡下手術 vs 開腹手術,(2)腹腔鏡ガイド下メソトレキセート療法 vs 腹腔鏡下卵管切開術,(3)経膣超音波ガイド下メソトレキセート療法 vs メソトレキセート全身投与療法.さらに,ランダム化の方法が適切であったのは,わずか31試験中7試験(23%)であった.この抄録では,治療群間で有意差が認められた比較についてのみ議論する.

外科療法

小さな非破裂卵管妊娠の血行動態が安定した女性を対象の3試験のメタ・アナリシスの結果は,開腹手術に比べ,腹腔鏡下保存的手術は,卵管妊娠除去において成功率が低く(相対リスク 0.90,95%信頼区間 0.83,0.97),それは腹腔鏡下手術では存続絨毛がより高率なためであった.卵管疎通性には有意差は認められなかった.術後の子宮内妊娠数は同等であったが,統計学的な有意差ではなかったものの反復外妊数はより少なかった.腹腔鏡下手術では明らかに出血や必要な鎮痛剤も少なく,手術時間,入院期間,回復時間も

有意に短かかった.そのため,腹腔鏡下手術のほうが経費は安かった.

1つの小規模の試験では,小さな非破裂子宮外妊娠に対する腹腔鏡下卵管切開術にバソプレシンを予防的に用いると,止血のための電気凝固療法の必要性が減り(相対比 0.36,95%信頼区間 0.14,0.95),その結果手術時間が有意に減少することが示された.

バソプレシンの副作用は記載されていなかった.しかし,これらの予防的なバソプレシンの効果は初回治療効果,卵管温存,卵管疎通性には影響しなかった.なぜなら,処置できない出血のために開腹手術または卵管切除術に変更した症例数に差はなかったためである.将来の受胎性に関するデータは得られなかった.

薬物療法

1つの多施設ランダム化比較試験では,腹腔鏡で非破裂卵管妊娠が確認され胎児心拍のない血行動態の安定した女性において,複数回の筋注によるメソトレキセート全身投与療法と腹腔鏡下卵管切開術とを比較した結果,短期および長期の治療効果に大きな差は見いだせなかった.健康関連QOL(health related quality of life)はメソトレキセート全身投与療法後によりひどく低下した.メソトレキセート全身投与療法は腹腔鏡下卵管切開術より,有意により経費がかかった.一人当たりの平均総治療費はメソトレキセート全身投与療法では5,271ドル,腹腔鏡下卵管切開術では4,066ドルで,差の平均は1,655ドル(95%信頼区間 906ドル,2,414ドル)であった.

4試験のメタ・アナリシスによると,血行動態安定な非破裂女性での腹腔鏡ガイド下のメソトレキセート療法は,腹腔鏡下卵管切開術に比べ,受胎産物除去の成功率は低く(相対比0.92,95%信頼区間 0.81,1.0),これは存続絨毛に対する治療がより高率なためである.追加治療の卵管温存への影響は少なかった(相対リスク 0.95,95%信頼区間 0.88,1.0).長期間フォローアップによると卵管疎通率と後の子宮内妊娠数はほぼ等しく,有意差はないものの反復外妊数はより少なかった.

メソトレキセート局注療法の場合,血行動態の安定した小さな非破裂外妊の女性において,超音波ガイド下に経膣的に胎嚢内に注入する方法は,ブラインドによる卵管への注入法に比べ,初回治療効果は有意に優れていた(相対リスク 1.6,95%信頼区間 1.0,2.5).卵管疎通率および将来の受胎性に関するデータは得られなかった.

胎児心拍陰性の小さい非破裂外妊の女性における小規模試験によると,生理食塩液溶解のメソトレキセートでは存続絨毛症がより高率になるため,リピオドール溶解のものよりも初回治療効果は良くなかった(相対リスク 0.35,95%信頼区間 0.12,0.89).両治療法とも投与経路は腹腔鏡ガイド下に行われた.卵管温存率と卵管疎通率は生理食塩液群で低かったが,後の子宮内妊娠率は高かった.しかし,これらの所見は有意な差ではなかった.

1つのプラセボ対照の試験によると,プロスタグランジン療法は,血清hCG濃度が2500I.U.未満の非破裂の外妊の女性において,待期的管理よりも優れ(相対リスク 8.3,95%信頼区間 1.2,55),副作用もなかった.卵管疎通率と将来の受胎性に関するデータは得られなかった.

小さい非破裂の外妊で血清hCG濃度が3000I.U.未満の女性において,グルコース高張液を超音波ガイド下に経膣的に胎嚢内に注入する方法は,腹腔鏡ガイド下にブラインドの卵管への注入法に比べ,初回治療効果は有意に優れていた(相対リスク 1.5,95%信頼区間 1.0,2.0).卵管疎通率に関する情報は得られなかった.後の子宮内妊娠と反復外妊数は超音波ガイド下での経膣的投与後がより少なかったが,これらは有意な差ではなかった.

結論:卵管妊娠の外科的療法の評価においては,腹腔鏡下術が選択されるべきである.腹腔鏡下卵管保存術は,絨毛存続症がより高率におこるため,卵管の受胎産物除去の点では開腹手術よりも劣っていたが,この技術は実際上すべての症例に適応可能であり,3つのランダム化比較試験において,安全でより経済的であることが証明された.長期フォローアップによると子宮内妊娠率はほぼ同等で,反復外妊率はより低かった.

卵管妊娠の薬物療法においては,ほとんどの試験がメソトレキセートを使った治療のものであった.この薬剤は最もよく知られ,臨床上広く使われているため,選択されるべきものである.メソトレキセートのさまざまな投与量と投与経路が比較された.さらに,メソトレキセート療法は,他の薬物療法,腹腔鏡下卵管保存療法,待機的管理と比較された.

1つのランダム化比較試験では,異なる投与経路でのメソトレキセート療法を比較し,超音波ガイド下に経膣的に胎嚢内へ直接薬剤を注入する方法が,腹腔鏡下のブラインドによる卵管内注入法よりも,受胎産物除去の点で有意に効果的であった.4つのランダム化比較試験をまとめた分析では,腹腔鏡ガイド下のメソトレキセートの効果は卵管妊娠の除去の点では腹腔鏡下卵管切開術よりも有意に劣っていた.1つの大規模多施設ランダム化比較試験では,腹腔鏡で非破裂卵管妊娠が確認された症例において,複数回のメソトレキセート筋注による全身投与と腹腔鏡下卵管切開術との間に短期および長期の治療効果に大きな差はなかったが,メソトレキセート全身投与法で経費は軽減しなかった.健康関連QOLはメソトレキセート全身投与後により低下した.しかし,患者は,メソトレキセート全身投与の大きい負担を,卵管妊娠の完全に非侵襲的治療という利点と(同等の価値と判断し)交換してもよいと思った.

腹腔鏡下メソトレキセート局注療法には意味がないということが明らかなようである.この投薬法は受胎産物の除去の点で腹腔鏡下手術よりも効果は低い.さらに,麻酔と穿刺針刺入の危険性が残る.超音波ガイド下経膣的メソトレキセート投与法は侵襲性は低く効果は大きいが,この技術は胎嚢部の描出と術者の特殊技術及び熟練を必要とする.メソトレキセート全身投与法は,より実際的で容易に投薬でき,また術者の技術によらないので,これらのすべての欠点を克服している.しかも,非侵襲的ま診断機器との併用により,メソトレキセート全身投与法は,完全に非侵襲的な外来治療の機会を提供する.

今までのところ,腹腔鏡下手術が卵管妊娠の入院患者の治療において基本である.しかし,卵管妊娠の診断が非侵襲的に確定するなら,低血清hCG濃度の患者に限り,可能な治療の選択肢の危険性と利益について適切に情報提供した上でならば,メソトレキセート全身投与法を推奨し得る.


Citation: Hajenius PJ, Mol BWJ, Bossuyt PMM, Ankum WM, Van der Veen F. Treatment of tubal ectopic pregnancy. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:八重ゆかり/浅井泰博)