精神分裂病に対するクロルプロマジン対プラセボ

Chlorpromazine versus placebo for those with schizophrenia

Thornley B, Adams CE, Awad G

最終更新日:01/12/1997


目的:プラセボと比較して精神分裂病に対するクロルプロマジンの有効性を評価すること.

検索方法:Biological Abstracts, コクラン精神分裂病グループの臨床試験データベース, コクラン・ライブラリー, EMBASE, MEDLINE, PsycLIT, SCISEARCHの電子検索がおこなわれた.さらに同定されたすべての研究の引用文献の中からその他の臨床試験を探した.製薬会社と臨床試験の著者に連絡を取った.

選択基準:診断の方法を問わず,精神分裂病と非感情病性の重症もしくは慢性の精神疾患の患者において,クロルプロマジン(投与量は不問)とプラセボを投与したランダム化比較試験であること.第一次的に関心のある帰結変数は死亡,暴力行為,全般的な改善,再燃,ケアに対する満足度であった.

データ収集と解析:複数のレビュアーによって互いに独立に引用と,可能な場合には抄録が調べられた.その後,論文が取り寄せられ,再び調査され質的検討がおこなわれた. BTとCAのチームとGAがデータを抽出し,信頼性の検討のためにサンプルの10%をチェックした.二値データはピートのオッズ比を使って分析され,その95%信頼区間が推定された.可能な場合は,治療効果発現必要症例数(Number needed to treat, NNT)ないし副作用発生必要症例数(Number needed to harm)が算出された.50%以上の患者が経過観察中に脱落した場合には連続的データは除かれたが,可能なときには重み付け平均差が算出された.データが均質でない場合には,ランダム効果モデルが用いられた.これについては本文中に解説がある.感度分析はこのレビューの最初のバージョンの中では扱われていない.

主な結果:電子検索された600以上の資料が調べられた.このうち327が取り寄せられ,251は包含ないし除外された研究のセクションで触れるに十分な程度まで,当レビューの選択基準に合致するかどうか検討された.現在,このレビューは170の論文(144の研究)を除外された研究に,76の論文(42の研究)を包含された研究として扱っている.5つの論文が評価の途中である. クロルプロマジンによって治療開始後6カ月間から2年間の間の再発が減った(Mantel-Haenzel OR 0.3 CI 0.16-0.56, NNT 3 CI 2.5-4) .また患者の症状や機能の全般的な改善がみられるという臨床試験からの確かな証拠がある(OR 0.33 CI 0.3-0.4, NNT 7 CI 6-11) .しかし,プラセボに対する反応もかなり良好なものであった(ほぼ40%). クロルプロマジンを投与された患者は早期にドロップアウトする者が少なかった(OR 0.52 CI 0.4-0.7, NNT 14 CI 9-31) . クロルプロマジンには明らかな鎮静作用(OR 3.0 CI 2.2-4.0, NNH 6 CI 4-8) ,急性の運動障害(OR 2.8 CI 1.4-6, NNH 24 CI 14-77),パーキンソン症状(OR 2.6 CI 1.8-3.7, NNH 10 CI 8-16)や発作(OR 3.11 CI 1-9, NNH 39 CI 20-684) の出現のような多くの副作用が認められた.他の症状では,眩暈を伴う血圧の低下(OR 2 CI 1.5-3, NNH 12 CI 8-22) と体重の増加(NNH 3 CI 2-5, OR 5 CI 2-10) を引き起こした.

結論:このレビューは臨床家やケアを受けている人達がすでに知っている多くのことを確認し,臨床的な印象を裏づける数値を示す.プラセボを投与された患者にも,少なくとも40%の改善がみられたが, クロルプロマジンが精神病患者の標準的な治療としての位置づけを持っていることは,このレビューによってもゆるぎないものである. 半世紀近く一般的に使用されてきたクロルプロマジンは,確立はされているが不完全な治療法といえる. クロルプロマジンを投与された患者の方が早期にドロップアウトしなかったのは,症状の改善が治療を続けようという病識ある決定を促した結果なのかもしれない.もしくはプラセボ群の患者が不十分な治療効果のためにドロップアウトした可能性も考えられる.逆にクロルプロマジンによる鎮静効果が自由な選択をする能力を減少させたとも解釈できる.現時点で最高のエビデンスを賢明に用いることは,治療者と精神病患者の両者にとってより良い情報に基づいた意志決定につながるであろう.


Citation: Thornley B, Adams CE, Awad G. Chlorpromazine versus placebo for those with schizophrenia. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:中村和宏/堀 士郎,古川壽亮)