不妊における卵管手術手技

Techniques of pelvic surgery in infertility

Watson A, Vandekerckhove P, Lilford R

最終更新日:23/03/1998


目的:卵管不妊治療としての手術手技(癒着剥離術,卵管開口術,近位卵管閉塞に対する手術,卵管結紮の解除術)の評価をすること.

検索方法:このレビューは全体を通じて,コクラン生殖能力低下グループが開発した検索方法によって行われた.関連した試験は,同グループの比較臨床試験特別レジスターから特定した.これ以上の情報はレビューを見ること.

選択基準:不妊手術手技に関する研究のすべてのランダム化比較試験.以下の項目の非ランダム化データを含めた.

1)不妊手術と無治療との有用性の比較

2)不妊手術と代替治療との有用性の比較

3)拡大鏡の有用性

4)不妊手術におけるCO2レーザーの有用性

5) 不妊手術としての手術的腹腔鏡の有用性

非ランダム化比較試験のデータが以下の場合は除外した.

a)治療群と対照群がかなり異質である.

b)治療群と対照群が異なるチームや異なる施設で手術された.

c)妊娠のアウトカムデータがない.

データ収集と解析:データは最初の二人の著者によって別々に抽出された.意見の相違は登録され,上級の著者(RL)との一致によって解決した.

妊娠の二分したアウトカムについて各試験ごとに2×2の表を作成し,各研究での妊娠率の効果をオッズ比とその95%信頼区間で示した.

主な結果:1)不妊手術と無治療の比較:開腹癒着剥離術と無治療を比較した非ランダム化比較試験が1つあり,対照群に比べて治療群で有意に妊娠率が高かった.

2) 不妊手術と代替治療の比較:体外受精法(IVF)と不妊手術の有用性を比較したランダム化比較試験はなかった.近位卵管閉塞に対する卵管手術とヒステロスコープ下または透視下再疎通を比較した研究はなかった.

3)不妊手術における拡大鏡:この研究にはたった1つランダム化比較試験があり,それによるとルーペ(拡大率2倍〜4.5倍)よりむしろ手術顕微鏡(拡大率4倍〜16倍)を使った方が有意差はないが妊娠率は減少したが有意差はなかった.1つのランダム化比較試験では患者をマイクロサージェリーとプロテーゼを使用するマクロサージェリーにランダムにわけた.マイクロサージェリー群で多く妊娠をしたが,有意差はなく,対象者は18名しかいなかった.マイクロサージェリーとマクロサージェリーを比較した非ランダム化比較試験はすべて,対照群が以前に行われたものだった.癒着剥離術や卵管開口術における拡大鏡の有用性についての研究のメタ・アナリシスでは,どちらの術式においてもマクロサージェリーよりマイクロサージェリーで統計学的に有意に妊娠率が高く,子宮外妊娠率が低かった.卵管結紮の解除術では,満期妊娠率は有意に上昇し,子宮外妊娠率は有意ではないが減少した.近位卵管閉塞の手術ではマイクロサージェリーとマクロサージェリーのいずれのアウトカムにおいても有意差はみられなかった.

4)不妊手術におけるレーザーの使用:不妊手術でCO2レーザーを使用することについて研究したランダム化比較試験は2つあった.癒着剥離術や卵管開口術後の妊娠のアウトカムについて有意差はなかった.レーザーの有用性についての研究には2つの非ランダム化試験もみられた.それらをあわせても,癒着剥離術,卵管開口術,卵管結紮術の解除術においてレーザーを使わない普通の手術とレーザーを使った手術の間に有意差はみられなかった.

5)腹腔鏡下不妊手術:不妊手術での腹腔鏡使用の研究は4つあった.ランダム化比較試験はなかった.腹腔鏡下癒着剥離術と開腹マイクロサージェリーによる癒着剥離術を比較した研究が1つあった.これらの術式によって妊娠率に有意差はなかった.有意差はないが,満期までいった子宮内妊娠率は上昇し,子宮外妊娠率は減少した.腹腔鏡下卵管開口術と開腹マイクロサージェリーによる卵管開口術を比較した4つの研究があった.開腹マイクロサージェリーによる卵管開口術後に比べて腹腔鏡下卵管開口術後では,全体の妊娠率,子宮内妊娠率は有意に減少した.

6)ランダム化比較試験によって研究されたその他の不妊手術方法:卵管疎通性を保つためにプロテーゼのある,なしでの卵管開口術結果を比較したランダム化試験は3つみられた.プロテーゼの使用を治療群として分析した2つの研究があった.どちらの研究もプロテーゼは術後の灌流に使われ,対照群では経頚管的に卵管通水を施行した.どちらの研究も,またこれらの研究をメタ・アナリシスを使って一緒にしても,妊娠率は治療群と対照群に有意差はみられなかった.1つの研究では,マイクロサージェリーとプロテーゼを使ったマクロサージェリーとを比較していた.この小規模な研究では,アウトカムに有意差はみられなかったが,マイクロサージェリーで妊娠率が上昇する傾向がみられた.

卵管結紮の解除術におけるフィブリン糊の有用性を研究したランダム化比較試験が1つあり,その研究では従来の手術に比べてフィブリンを塗布した卵管での術後の癒着のレベルに変化がないことを示した.

結論:以下の結論がランダム化比較試験より導き出される.

a)拡大鏡に手術顕微鏡とルーペとの使用を比較すると有意な利点はない.

b)不妊手術におけるCO2レーザーの使用は満期までの妊娠に有益ではない.

次の結論が非ランダム化データより注意は必要だが,推定されるかもしれない.

a)癒着に対しての癒着剥離の治療は妊娠の可能性を向上させるようである.

b)拡大鏡を使用しないのに比べると使用した方がよいようである.

c)腹腔鏡下卵管開口術は開腹手術と比べて妊娠のアウトカムを減少するようである.

d)腹腔鏡下癒着剥離術はマイクロサージェリー下癒着剥離術と同等の効果があるかもしれない.


Citation: Watson A, Vandekerckhove P, Lilford R. Techniques of pelvic surgery in infertility. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:福井直仁/anonymous、岡田 隆)