アルツハイマー病におけるタクリンの有効性

The efficacy of tacrine in Alzheimer's disease

Qizilbash N, Birks J, Lopez Arrieta J, Lewington S, Szeto S

最終更新日:01/03/1997


目的:アルツハイマー病の症状に対するタクリンの臨床的有効性の評価.

検索方法:コクラン痴呆症グループでは,"tacrine","tetrahydroaminoacridine","THA"の語を用いて臨床試験を検索し登録した(詳しくは,コクラン痴呆症グループの検索戦略を参照のこと).

選択基準:アルツハイマー型痴呆患者に対して,タクリンを1日以上投与し,プラセボ群と比べた双盲ランダム化比較試験であることが明確に確認できる試験は全て含めた.

データ収集と解析:データは二人のレビュアーが,それぞれ独自に抽出し,プールすることが適当かつ可能であれば,プールした全体のオッズ比(95%信頼区間)と平均差(95%信頼区間)を求めた.可能であれば,intention-to-treatのデータが用いられた.

主な結果:このレビューでは,はっきりした結論は得られなかった.結果は,タクリン投与により,アルツハイマー病の症状を改善させるもの,変化の見られないもの,かえって悪化させるもののいずれもがみられた.既に発表されている試験論文のデータを一括して分析することは,多くの場合不可能だった.全般的な臨床的改善を評価すべく,intention-to-treat分析を行ったが,タクリン投与群とプラセボ群との間にはいかなる差も見られなかった(OR 0.87;95%信頼区間 0.61〜1.23).ADAS-NonCogスケール(アルツハイマー病の評価尺度で非認知タイプの機能を測定するスケール)で測定した行動障害に対する効果も,タクリン投与群とプラセボ群との間に差は見られなかった(SMD -0.04;95%信頼区間 -0.52〜0.43).認知機能に関して,MMSE(MiniMental State Examination) scoreでみたタクリンの効果は,プラセボ群と比較しても,統計的有意差は見られなかった(0-30;high=good)(SMD 0.14;95%信頼区間 -0.02-0.30).しかし,ADAS-Cogスケール講毆)(アルツハイマー病の評価尺度で,認知タイプの機能を測定するスケール)を用いると,わずかにタクリンに有利な統計的有意差が見られた(SMD-0.22;95%信頼区間 -0.32〜-0.13).有害事象については,それぞれの試験で必ずしもきちんと記述されていないため,正式な比較は困難であった.血清中肝酵素活性の上昇が,投薬中止の主な理由となっている.有害事象による投薬中止は対照群で少なく,タクリン群が有意に高いオッズ比を示した(OR 5.7;95%信頼区間 4.1〜7.9).消化器系副作用(下痢,食欲不良,消化不良,腹部痛)も主要な有害事象であり,投薬中止の理由としても肝障害に次ぐものであった.消化器系副作用による投薬中止のオッズ比も有意の値を示し(OR 3.8;95%信頼区間 2.8〜5.1),対照群に有利な結果であった.試験期間中(最大6カ月まで)の死亡は全試験を通じて報告されていない.

結論:このレビューでは,タクリンがアルツハイマー病の症状の治療に有用な治療法であるという確証は得られなかった.しかし,プールして扱うのに適した形でデータを提示している論文がほとんどない点を考慮するなら,将来,関連する論文の全データを取り入れて扱うことによって,このレビューの結果も修正される可能性はある.既存の臨床試験の全データを独自に評価し直すことが緊急課題だが,発表された論文や集計データを元に,これら個々のデータにアクセスすることが現状では不可能である.個々の患者データを扱えるインデペンデントなメタ・アナリシスが必要である.


Citation: Qizilbash N, Birks J, Lopez Arrieta J, Lewington S, Szeto S. The efficacy of tacrine in Alzheimer's disease. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:野崎香織/別府宏圀)