大腿骨近位端骨折に対する手術前牽引

Pre-operative traction for fractures of the proximal femur

Parker MJ, Handoll HHG

最終更新日:11/08/1998


目的:股関節骨折(大腿骨頚部)にたいして外科手術に先だって行われる牽引の有効性を評価した我々のレビューを最新のものにすること.異なる牽引方法(直達牽引,介達牽引)について考察を行った.

検索方法:1998年6月にいたるまでコクラン筋骨格-外傷グループの検索方法を使用した.

選択基準:急性期の股関節骨折患者に対し手術前に直達牽引または介達牽引のどちらかひとつを行う場合と牽引を行わない場合,また直達,介達牽引共に行った場合の比較をランダム化比較試験や準ランダム化比較試験によって行った.

データ収集と解析:データはこれまでに発表された結果に,すべての試験から見いだされた情報を加えたものから抽出した.データは正確性のため,可能な限り図表化して示した.

主な結果:前回同様,主として高齢の患者を合計515人含んだ4つの中等度の質を持ったランダム化比較試験を抽出し,レビューに含めた.要約だけしか発行されていない1つの論文のデータもさらに利用された.これらのデータは提出されたが,結果や結論に重要な変化は生じなかった.牽引を行った場合と牽引を行わなかった場合を比較した3つの研究によると,牽引による痛みが緩和されたり,手術時に骨折の整復が容易になり手術時間が短縮されるというような効果は認められなかった.これらの3つの研究の中の1つに直達牽引と介達牽引の双方を行っているものがあった.この研究と,直達牽引と介達牽引を比較しているもうひとつの研究によると,直達牽引を最初から用いると痛みをより多く伴い費用もより多くかかるにもかかわらず,直達牽引と介達牽引の間にはなんら重要な差異は認められなかったとしている.

結論:今回得られた限られたエビデンスからは,股関節骨折の手術前に(直達であれ介達であれ)ルーチンに牽引を行うことの有用性は見い出されないようである.全般的あるいは選択的に牽引を適用しようという方針のもとに牽引方法を選択するとき,個々の患者の評価に基づいた決定をすべきである.確かな方法論に基づいた研究により,牽引の有効性がないということを裏付けるためにさらなる調査が必要であろう.


Citation: Parker MJ, Handoll HHG. Pre-operative traction for fractures of the proximal femur. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:今道英秋 /鶴岡浩樹)