原発性変性性痴呆,混合型痴呆,血管性痴呆の治療におけるニモジピン

Nimodipine in the treatment of primary degenerative, mixed and vascular dementia.

Qizilbash N, Lopez Arrieta J and Birks J

最終更新日:26/05/1997


目的:アルツハイマー型痴呆,血管性痴呆,混合型痴呆などの主要サブタイプ,あるいは未分類の痴呆症状に対するニモジピンの臨床的有効性を評価した.

検索方法:コクラン痴呆症グループ(Cochrane Dementia Group:以下CDGと略)では"nimodipine"と"isopropyl(2-methoxy-ethyl)1,4-dihydro-2,6-dimethyl-4-(3-nitrophenyl)-3,5-pyri-dinedicarboxylate"の語を用いて臨床試験を検索し登録した.

選択基準:未分類の痴呆,あるいは主要サブタイプ(アルツハイマー型,血管性,および混合型)痴呆患者に対して,ニモジピンを1日以上投与し,プラセボ群と比べた双盲ランダム化比較試験であることが明確に確認できる試験は全て含めた.

データ収集と解析:データは複数のレビュアーが,それぞれ独自に抽出し,オッズ比(95%信頼区間)や平均差(95%信頼区間)を求めた.intention-to-treatおよびon-treatment分析,いずれの結果も用いられた.

主な結果:このレビューでは,はっきりした結論は得られなかった.発表されたデータの大部分は,プールして扱うには馴染まないものであった.データは,アルツハイマー型痴呆,血管性痴呆,混合型痴呆のいずれに関しても,ニモジピン投与が症状を改善させるもの,変化のないもの,かえって悪化させるものなど,さまざまであった.既に発表されている試験論文のデータを一括して分析することは,多くの場合不可能だった.全般的な臨床的改善の評価には,intention-to-treat分析を試みたが,その基礎となったのはたった1件の臨床試験のみだった.結果は,プラセボ群とニモジピン群の間に差を認めなかった(OR 0.53;95%信頼区間 0.25〜1.13).on-treatment解析では,ただ1件の研究にもとづくものではあるが,ニモジピンを支持する統計学的に有意な差が見られた(SMD 4.4; 95%信頼区間 3.9〜5.0).認知機能に関しては,ニモジピン群は,プラセボ群と比較してMMSE(MiniMental State Examination) scoreで,統計学的に有意な差が見られた(0〜30;high= good)(SMD 0.9;95%信頼区間 0.59〜1.22).また,Wechsler Memory Scaleでも,治療を支持する統計学的に有意な差が見られた(SMD 0.47;95%信頼区間 0.17〜0.77).これらの結果は,試験を完遂できた患者のみを対象に分析した成績であり,intention-to-treat分析ではない.機能的な自立,行動,生活における依存の質(eg.施設収容),介護者の影響,死,治療に対する受容度(治療中止率などで評価できるさ),安全性(副作用発現率や治療中止に至るような副作用の頻度で評価できる)に関しては,全データをプールして扱えるような形のデータは提示されていない.

結論:このレビューでは,ニモジピンが痴呆症状--未分類の痴呆症,あるいはアルツハイマー型痴呆,血管性痴呆,混合型痴呆の主要サブタイプのいずれであるにせよ--に有用な治療法であるという確証は得られなかった.しかし,プールして扱うのに適した形でデータを提示している論文がほとんどない点を考慮するなら,将来,関連する論文の全データを取り入れて扱うことによって,このレビューの結果も修正される可能性はある.既存の臨床試験の全データを独自に評価し直すことが緊急課題だが,発表された論文や集計データを元に,これら個々のデータにアクセスすることが現状では不可能である.個々の患者データを扱えるインデペンデントなメタ・アナリシスが必要である.ニモジピンは,現段階では,痴呆患者への使用を薦められない.


Citation: Qizilbash N, Lopez Arrieta J and Birks J. Nimodipine in the treatment of primary degenerative, mixed and vascular dementia.. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:野崎香織/別府宏圀)