精神分裂病に対するクロザピン対「定型的」メジャートランキライザー

Clozapine vs 'typical' neuroleptic medication for schizophrenia

Wahlbeck K, Cheine M, Essali MA

最終更新日:21/08/1998


目的:精神分裂病に対して定型的抗精神病薬と比較してクロザピンの効果を評価する.

検索方法:Biological Abstract, コクラン比較臨床試験レジスター, コクラン精神分裂病グループの比較臨床試験特別レジスター, EMBASE, ISI Citation Index, LILACS, MEDLINE, PsycLITのデータベースから使用言語に関わらず検索した.包含された論文の引用文献のリストのスクリーニングを行った.最近の臨床試験の著者とクロザピンの製造会社に連絡をとった.

選択基準:定型的抗精神病薬とクロザピンを比較した全てのランダム化比較試験が,少なくとも2人のレビュアーによって独立に評価されてから包含された.

データ収集と解析:データは最低2人のレビュアーが互いに独立に抽出した.1980年以降に出版された臨床試験の著者には追加または欠損データについて連絡をとった.均質な二値データのオッズ比(OR)とその95%信頼区間(CI)をPeto法で計算した.不均質な二値データにはランダム効果モデルを適用した.可能であれば効果発現必要症例数(Number Needed to Treat: NNT)または副作用発現必要症例数(Number Needed to Harm: NNH)も計算した.連続データについては加重平均値あるいは標準化平均値を計算した.

主な結果:現在,レビューは29の研究を含んでいる.そのうち24の研究は持続期間が13週未満である.これらの研究は2,490人の協力者を含み(うち73%が男性),その平均年齢は38歳である.

臨床試験の終了時点において死亡率,労働能力,退院の適合性といった全般的なアウトカムに関して,クロザピンと定型的メジャートランキライザーの間で有効性の差についてエビデンスはなかった.

クロザピン投与群で,短期間および長期間の臨床的に重要な改善がより頻繁に認められた(ランダム効果OR 0.4 CI 0.2-0.5 NNT 6).短期間では,定型的抗精神病薬群と比較してクロザピン投与群の再発が少なく(OR 0.6 CI 0.4-0.8 NNT 21),このことは長期間でも同様に正しいかも知れない.症状評価スケールでは,クロザピンで治療した患者の方に大きな症状の減少が見られた.クロルプロマジンのような低力価の抗精神病薬よりもクロザピン治療のほうが受け入れられやすいが(OR 0.6 CI 0.4-0.9),ハロペリドールのような高力価の抗精神病薬とは差がなかった(ランダム効果 OR 0.8 CI 0.4-1.5).クロザピンは長期治療において通常の抗精神病薬と比較して,より受け入れられやすかった(ランダム効果OR 0.3 CI 0.2-0.5 NNT 3).

患者はクロザピン治療のほうが満足した者が多かった(OR 0.5 CI 0.3-0.8)が,しかし,彼らは通常の抗精神病薬に比較して,より多くの流涎,体温上昇,傾眠,眩暈を経験した.しかしながら,クロザピン患者群では運動器管の副作用と口渇を経験することは少なかった.

臨床的な改善(ランダム効果 OR 0.2 CI 0.1‐0.5 NNT 5)と症状の減少の面でクロザピンの臨床的有効性は定型的メジャートランキライザーに抵抗性のある患者でより顕著であった.治療抵抗性の患者の31%がクロザピン治療で臨床的改善が得られた.

結論:このシステマティック・レビューでは,少なくとも精神分裂病の症状を軽減すること,臨床上意味のある改善をもたらすこと,再発を遅らせることにおいてクロザピンは定型的抗精神病薬よりも有効であることを明らかにしている.患者は定型的メジャートランキライザーよりもクロザピン治療により満足した.しかし,この臨床上のクロザピンの効果は少なくとも短期間においては,退院や仕事を継続する能力のような全体的機能の尺度に反映されていない.

短期間クロザピンを使う利点は副作用の危険性と比較検討しなければいけない.潜在的に危険な副作用となりうる白血球減少については,成人よりも小児や思春期にその発症が多いようである.

今日までに行われてきた臨床試験では,クロザピン治療についての患者と家族の意見の評価がほとんど無視されてきた.一般社会での全体的機能や社会的機能についてクロザピンの有効性を評価するためには,一般社会での長期間にわたるランダム化比較試験がさらに必要である,同様に老人や知的障害をもつ人々のような特別なグループにおける臨床試験も必要である.入院している成人で従来使用されてきたメジャートランキライザーと比較してクロザピンの有効性は今や十分に確立され,さらに病院で短期間の臨床試験を行うことは資源の無駄であり非倫理的ですらあるかもしれない.


Citation: Wahlbeck K, Cheine M, Essali MA. Clozapine vs 'typical' neuroleptic medication for schizophrenia. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:福井直仁/中野有美)