重症精神障害患者に対するケースマネージメント

Case management for people with severe mental disorders

Marshall M, Gray A, Lockwood A, Green R

最終更新日:01/12/1997


目的:地域社会に生活する重症精神障害患者をケアする方法としてのケースマネージメントの有効性を判定する.ケースマネージメントは4つの主な指標に関して標準的なケアと比較された.1)精神科的サービスを受け続ける人数,2)精神病院への入院の割合,3)臨床的および社会的帰結,4)費用.

検索方法:コクラン精神分裂病グループの臨床試験データベース, EMBASE, MEDLINE, PsycLIT, CINAHL, SCISEARCH の検索をおこなった.さらに同定されたすべての研究と総説の引用文献の検索も行なった.

選択基準:選択基準は以下の通りであった.1)ランダム化比較試験であること.2)ケースマネージメントが共同体における標準的なケアと比較されていること.3)主に18〜65歳の重症精神障害患者を含んでいること.ケースマネージメントの研究とは,研究者がその介入を地域社会における積極的コミュニティ治療(Assertive Community Treatment, ACT)ではなく,‘ケース’もしくは‘ケア’マネージメントとして記載しているものである.

データ収集と解析:選択基準の信頼性が検証された.カテゴリー的なデータが2回抽出され,互いに照らしあわし,意見の相違は討論によって解決された.オッズ比と治療効果発現必要症例数(Number needed to treat, NNT)が推定された.評価尺度によって集められた連続的データは以下の場合にのみ採用された.1)その方法がピアレビューされた雑誌に記載されていること.2)自記式もしくは独立した評定者によって評価されていること.3)広範な機能に対して総合得点が算出されていること.正規分布する連続的データは,平均値と標準偏差が分かっていれば採用された.正規分布しないデータは,変換後に分析されたか,もしくはノンパラメトリックな方法を使用しているならば採用された.不均質性の検定が施行された.

主な結果:ケースマネージメントによって,サービスを受け続ける人数が増えた(オッズ比=0.70;99%信頼区間 0.50-0.98; n=1210).ケースマネージメントによって,精神病院に入院する人数はおおよそ2倍になった(オッズ比=1.84; 99%信頼区間 1.33-2.57; n=1300).一つの研究でコンプライアンスが向上したことを除けば,ケースマネージメントは精神医学的ないし社会的側面において,標準的ケアと比較して有意な相違は認められなかった.費用に関するデータはケースマネージメントに不利なものであったが,明確な結論を導き出すには情報が不十分であった.

結論:ケースマネージメントによって,より多くの患者が精神科サービスを受け続けることになった.(ケースマネジメントを受ければ,患者15人につき1人が標準的ケアよりも多く精神科サービスを受け続ける) しかし,入院率も上昇することになる.現在のエビデンスからはケースマネージメントによって入院期間も長くなることが示唆されているが,確実とは言い難い.ケースマネージメントによって,コンプライアンスが向上するというエビデンスも散見されるが,臨床的に有意に精神状態,社会機能および生活の質が向上することはない.ケースマネージメントによって,他の臨床的ないしは社会的変数における帰結が向上するというエビデンスも認められない.現在のところ,ケースマネージメントによってヘルスケアに要する費用がかさむことが推測はされるが,確かとは言い難い.まとめるとケースマネージメントは価値の疑わしい介入であり,地域の精神科サービスによって提供されるべきかどうか疑わしい.エビデンスに基づいたアプローチに賛同する政策決定者が,いかにしてケースマネージメントを地域社会におけるメンタルへルスケアのかなめと位置づけることを正当化するかは難しい.ケースマネージメントは今後,コクランレビューの中で,それに代わる主なアプローチ(ACT)と比較される予定である.


Citation: Marshall M, Gray A, Lockwood A, Green R. Case management for people with severe mental disorders. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:中村和宏/堀 士郎,古川壽亮)