重篤な脳損傷の管理におけるバルビツレート

Barbiturates in the management of severe brain injury

Roberts I

最終更新日:02/05/1997


目的:急性の外傷性脳損傷患者において,上昇した脳圧の低下,死亡率,罹患率の低下に対するバルビツレートの有効性を定量的に評価すること.バルビツレートの使用に起因する副作用を定量的に評価すること.

検索方法:総説は,総括的にはコクラン外傷グループに対してつくられた検索方法によって主に作成された.しかし加えて1996年12月にはBarbiturate, Pentobarb, phenobarb, Head, Brainといった検索語句を使ってコクラン・ライブラリーを検索した.

選択基準:研究は,次の基準を満たしていればレビューに含んだ.(a)研究参加者は臨床的に,様々な重症度をもって急性外傷性脳傷害であると診断されている.(b)介入は,1つ以上のバルビツレート系の薬剤(アモバルビタール, バルビタール, ヘキソバルビタール, メフォバルビタール, メトヘキシタール, murexide, ペントバルビタール, フェノバルビタール, セコバルビタール, チオバルビツレート)からなる.(c)研究参加者は,ランダムにもしくは準ランダムに治療群と対照群に割付けられた.

データ収集と解析:次の情報,すなわち割付けの隠蔽の方法,ランダム化された患者の数をそれぞれの研究から得た. 検討された主なアウトカムのデータは,死亡人数と研究終了時に身体に障害を受けていた人数である.能力障害は次に示すカテゴリーによるGlasgow Outcome Scale(Jennett,Bond1975)を用いて評価された.すなわち死亡,植物状態,重篤な身体障害,中等度の身体障害,回復である.副作用もしくは合併症,特に,低血圧や低体温の発症に関するデータも抽出された.

主な結果:死亡に関する集積相対危険度(バルビツレート対非バルビツレート)は1.09(95%CI 0.81〜1.47)であった.Glasgow Outcome Scaleを用いて測定された好ましくない神経学的アウトカム(死亡,植物状態,重篤な能力障害)に関するバルビツレートの集積効果は1.15(95%CI 0.81〜1.64)であった.2つの研究で,脳圧に関するバルビツレートの治療効果が検討された.Eisenbergerらの研究では,バルビツレート群で脳圧がコントロールされない患者がより少なかった(68%対83%).脳圧がコントロールされない場合の相対危険度は0.81(95%CI 0.62〜1.06)であった.同様にWardらの研究でも,バルビツレート群では平均脳圧がより低かった.バルビツレート療法では低血圧の発症が増える結果(相対危険度=1.80, 95%CI 1.19〜2.70)となった.4人の患者を治療するごとに1人の臨床的に有意な低血圧が起こるであろう.バルビツレート群では平均体温は有意に低かった.Schwarzらは,脳圧のコントロールに関しペントバルビタールをマンニトールと比較した. ペントバルビタールによる上昇した脳圧をコントロールする効果はマンニトールよりも小さかった.ペントバルビタール治療群の患者の68%が,上昇した脳圧の治療のため更なるな薬剤が必要であったのに対し,マンニトール治療群では39%であった(相対危険度1.75, 95%CI 1.05〜29.2).2つの研究グループの間で死亡率に実質的な違いはなかった(相対危険度1.18, 95%CI 0.73〜1.92).

結論:重篤な急性脳損傷の患者で,バルビツレート療法がアウトカムを改善するというエビデンスは得られなかった.バルビツレート療法は4人の治療につき1人の血圧を下げるという結果であった.バルビツレート療法の降圧効果は,脳の灌流圧に対しどれだけかの脳圧低下効果を補うであろう.


Citation: Roberts I. Barbiturates in the management of severe brain injury. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:池田扶実子/後藤忠雄,大野茂樹)